大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

大阪高等裁判所 平成9年(ネ)1724号 判決

第一七二四号=控訴人(被告・原告)

小林敏夫

ほか一名

被控訴人(原告・被告)

佐藤春雄

ほか一名

第一七四〇号=控訴人(被告)

被控訴人

佐藤春雄

ほか一名

主文

一  控訴人小林らの本件控訴のうち、控訴人小林らの被控訴人らに対する請求に関する部分をいずれも棄却する。

二  控訴人小林らの本件控訴に基づき、原判決主文一項中の被控訴人らの控訴人小林らに対する請求に関する部分を次のとおり変更する。

1  控訴人小林らはそれぞれ、

(一)  被控訴人佐藤春雄に対し、金二〇六万七〇〇〇円、並びに内金一四三万九八〇〇円に対する平成三年八月五日から、内金六二万七二〇〇円に対する平成五年一〇月一〇日から各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

(二)  被控訴人佐藤敏子に対し、金一五七万一六八九円、並びに内金一四二万一六八九円に対する平成三年八月五日から、内金一五万円に対する平成五年一〇月一〇日から各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

2  被控訴人らのその余の請求をいずれも棄却する。

三  控訴人国の控訴に基づき、原判決主文一項中の被控訴人らの控訴人国に対する請求に関する部分を次のとおり変更する。

1  控訴人国は、被控訴人らのそれぞれに対し、各金三四六万八〇〇七円及びこれに対する平成四年一一月五日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

2  被控訴人らのその余の請求をいずれも棄却する。

四  訴訟費用は、第一、二審を通じ、被控訴人らに生じた費用の各一〇分の一及び控訴人小林らに生じた費用を控訴人小林らの負担とし、被控訴人らに生じた費用の各一〇分の一及び控訴人国に生じた費用の二分の一を控訴人国の負担とし、その余をすべて被控訴人らの負担とする。

五  右二1項及び三1項は、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一申立

一  控訴人小林敏夫及び同小林順子(この二名を以下「控訴人小林ら」という。)

1  原判決のうち控訴人小林らの敗訴部分を取り消す。

2  被控訴人佐藤春雄及び同佐藤敏子(この二名を以下「被控訴人ら」という。)は、各自、

(一) 控訴人小林敏夫に対し金五〇〇万円及び内金四五〇万円に対する平成三年八月五日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

(二) 控訴人小林順子に対し金五〇〇万円及び内金四五〇万円に対する平成三年八月五日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

3  被控訴人らの請求をいずれも棄却する。

4  訴訟費用は、第一、二審とも、被控訴人らの負担とする。

二  控訴人国

1  原判決のうち控訴人国の敗訴部分を取り消す。

2  被控訴人らの請求を棄却する。

3  訴訟費用は、第一、二審とも、被控訴人らの負担とする。

三  被控訴人ら

1  控訴人らの控訴をいずれも棄却する。

2  控訴費用は控訴人らの負担とする。

第二事案の概要

第一七二四号事件は、原動機付自転車と自動二輪車とが正面衝突して双方の運転者が死亡した交通事故につき、それぞれの両親が相互に損害賠償を請求し、原審が原動機付自転車運転者佐藤哲也の両親(被控訴人ら)の請求を一部認容し、自動二輪車運転者小林新児の両親(控訴人小林ら)の請求をすべて棄却したので、控訴人小林らが控訴したものである。

第一七四〇号事件は、右交通事故に関し、原動機付自転車が自賠責保険などに加入していなかったことから、控訴人国が政府の自動車損害賠償保障事業(自動車損害賠償保障法)として、自動二輪車運転者の両親(控訴人小林ら)に損害のてん補をしたうえ、原動機付自転車運転者の両親(被控訴人ら)に同法七六条一項に基づく回収金等を請求した件につき、被控訴人らが、右請求に応じてした支払が非債弁済であったとして、控訴人国に対し不当利得の返還を請求し、原審が同請求を一部認容したので、控訴人国が控訴したものである。

一  争いのない事実

1  交通事故(以下「本件事故」という。)

(一) 日時 平成三年八月四日午後一時一〇分ころ

(二) 場所 京都府相楽郡南山城村大字高尾小字奥山三番地の南方約一一〇〇メートルの府道上野南山城線の蛇行地点(以下「本件道路」という。)

(三) 態様 本件道路を南に走行していた佐藤哲也(昭和四九年五月四日生れ。以下「哲也」という。)が運転する原動機付自転車(車両番号なし。以下「佐藤車」という。)と、同所を北に走行していた小林新児(昭和四六年一二月四日生れ。以下「新児」という。)の運転する排気量〇・二五リットルの普通自動二輪車(一大阪た二五八二号。以下「小林車」という。)とが正面衝突し、哲也と新児はいずれも脳挫傷等で即死した。

2  控訴人佐藤らは哲也の両親であり、法定相続分各二分の一の割合で、哲也の権利及び義務を相続した。

被控訴人らは新児の両親であり、法定相続分各二分の一の割合で、新児の権利及び義務を相続した。

3  損害のてん補など

(一) 被控訴人らは、それぞれ、自賠責保険から各一五〇〇万〇八〇〇円の支払を受けた。

(二) 控訴人小林らは、佐藤車が自賠責保険に加入していなかったので、国の自動車損害賠償保障事業による損害のてん補として合計二〇四〇万〇一八四円の支払を受けた。

二  争点

1  過失

(一) 控訴人小林らの主張

小林車は、本件道路を北に向かい本件事故の直前まで北行車線(別紙現場見取図記載の木津行車線。以下「北行車線」という。)を走行し、事故現場手前の東に湾曲した地点(以下「南側湾曲地点」という。)にさしかかった際、いわゆるアウト・イン・アウト走法で北行車線を逆走行中の佐藤車を認め、これを避けるためやむなく反対車線(同現場見取図記載の上野行車線。以下「南行車線」という。)に出たもので、それにもかかわらず佐藤車が南行車線に戻ろうとしたため、左に転把して北行車線に戻ろうとしたが、佐藤車の走行速度が時速四〇キロメートルを大幅に越えていたこともあって、避けきれずに本件道路のほぼ中央線上で衝突したものである。小林車を運転していた新児には、過失がない。仮に過失ありとしても、その過失割合は四割以下である。

(二) 被控訴人らの主張

本件事故は、時速八〇ないし一〇〇キロメートルの高速度で走行していた小林車が、同車に先行する四輪自動車に視野を遮られたまま同車両を追い越そうとして反対車線(南行車線)に飛び出したか、あるいは南側湾曲地点をいわゆるコーナーカットして直線的に走行しようとして、同地点右側の電柱や茂みに視界を遮られて南行車線を走行している佐藤車に気付かないまま、反対車線(南行車線)を逆走行したか、いずれにせよ、南行車線を走行していた佐藤車の目前に突進したことが原因である。このように逆行してくる車両を予測することは不可能であるから、哲也には全く過失がない。仮に過失ありとしても、その過失割合は五パーセントを越えない。

2  損害

(一) 控訴人小林らの主張

(1) 新児の逸失利益

本件事故前の新児の年収は、同時期に入社した者のその後の年収実績からも六〇〇万円を越えていたことが明らかであり、少なくとも平成三年賃金構造基本統計調査(労働省製作調査部編)の全労働者平均給与の五二一万五八〇〇円を基礎年収とすべきである。そして、就業可能年数を四八年(ホフマン係数二四・一二六三)、生活費控除を五〇パーセントとすれば、逸失利益は六二九一万八九七七円である。

(2) 医療費 六万一三九〇円

(3) 葬儀費用 一一九万八七五〇円

読経代 二一万円

墓石代 一〇〇万円

(4) 慰謝料

新児の慰謝料 二〇〇〇万円

控訴人小林ら固有の慰謝料 各五〇〇万円

(5) 損害のてん補(控除) 二〇四〇万〇一八四円

(6) 弁護士費用 各一〇〇万円

(7) 以上の差引合計は七六九八万八九三三円となり、控訴人小林らそれぞれにつき各三八四九万四四六六円となるところ、同額の債務を相続分二分の一で相続した被控訴人らの各負担額は、控訴人小林らのそれぞれに対し各一九二四万七二三三円となる。

(8) よって、控訴人小林らはそれぞれ、被控訴人らのそれぞれに対し、右各負担額の一部五〇〇万円及びその内金四五〇万円(右五〇〇万円から弁護士費用分を控除したもの)に対する不法行為の日の後である平成三年八月五日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

(二) 被控訴人らの主張

(1) 哲也の逸失利益

本件事故前の哲也の年収は、賃金センサス平成三年全年令平均給与額、就業可能年数を四九年(ホフマン係数)、生活費控除を五〇パーセントとすれば、逸失利益は六五一四万三六四〇円である。

(2) 慰謝料 二二〇〇万円

(3) 損害のてん補(控除) 三〇〇〇万一六〇〇円

なお、以上(1)ないし(3)の差引き合計額の二分の一は二八五七万一〇二〇円となる。

(4) 被控訴人佐藤春雄の負担した左記費用(合計二九三万六八七〇円)

医療費 六万八〇〇〇円

葬儀費用 一六八万〇八二四円

読経代 二一万円

香典返し 九六万八二〇〇円

位牌代 九八四六円

(5) 弁護士報酬

被控訴人佐藤春雄分 三一五万円

被控訴人佐藤敏子分 二八六万円

(6) 以上の合計は、被控訴人佐藤春雄につき三四六五万七八九〇円、同佐藤敏子につき三一四三万一〇二〇円となるところ、同額の債務を相続分二分の一で相続した控訴人小林らの各負担額は、被控訴人佐藤春雄に対し一七三二万八九四五円(そのうち右(1)ないし(3)の分は一四二八万五五一〇円)、同佐藤敏子にたいし一五七一万五五一〇円(右同)となる。

(7) よって、

被控訴人佐藤春雄は、控訴人小林らのそれぞれに対し、右各負担額一七三二万八九四五円、並びに内金一四二八万五五一〇円に対する不法行為の日の後である平成三年八月五日から、残金三〇四万三四三五円(右(4)及び(5)の合計額の二分の一)に対する同平成五年一〇月一〇日から各支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

被控訴人佐藤敏子は、控訴人小林らのそれぞれに対し、右各負担額一五七一万五五一〇円、並びに内金一四二八万五五一〇円に対する不法行為の日の後である平成三年八月五日から、残金一四三万円(右(5)の二分の一)に対する同平成五年一〇月一〇日から各支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

3  被控訴人の控訴人国に対する不当利得返還請求

(一) 被控訴人らの主張

(1) 被控訴人らは、平成四年一一月一日ころ、運輸省自動車交通局保障課長作成の「損害てん補額の回収について」と題する書面で、それぞれ一〇二〇万〇〇九二円(合計二〇四〇万〇一八四円)及びこれに対する遅延損害金を支払うよう請求を受け、送付された納入告知書により、同月四日、それぞれ一〇二〇万〇〇九二円及び遅延損害金五五八九円を納入した。

(2) しかし、本件事故につき哲也には全く過失がなく、被控訴人らには賠償責任がない。

(3) 被控訴人らは、控訴人国に対する不当利得返還請求につき、それぞれ弁護士報酬一〇二万円の支払を約した。

(4) よって、被控訴人らは、それぞれ、控訴人国に対し、右(1)及び(3)の合計一一二二万五六八一円、並びに内金一〇二〇万五六八一円に対する平成四年一一五日から、残金一〇二万円に対する平成五年九月二八日から各支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

(二) 控訴人国の主張

(1) 被控訴人ら主張(1)の事実は認める。国の債権の管理等に関する法律に基づき、被控訴人らに対し、控訴人小林らに行った後記支払の回収金等とし支払を求めたものである。被控訴人らから納入があった金員は、各六九六七円を延滞金に充当し、各一〇一九万八七一四円を回収金元本に充当した(したがって残元本は各一三七八円となる。)

(2) 被控訴人ら主張(2)及び(3)の事実は否認する。

控訴人国は、佐藤車(原動機付自転車)が自賠責保険などに加入していなかったことから、政府の自動車損害賠償保障事業(自動車損害賠償保障法)として、小林車を運転していた新児の両親である控訴人小林らから請求を受け、事故状況から衝突地点は本件道路の中央線付近であり、新児の過失割合が六割であり、哲也の過失割合が四割であるとして、死亡に至るまでの傷害による損害を一万八三六四円、死亡による損害を二〇三八万一八二〇円とし、平成四年九月二九日、受託会社(東京海上火災保険株式会社)を通じて控訴人小林らのそれぞれに対し各一〇二〇万〇〇九二円を支払い(合計二〇四〇万〇一八四円)、これにより、控訴人小林らの有する同額の損害賠償請求権を取得したものである。

第三当裁判所の判断

一  過失について

1  成立に争いのない甲二号証、本件道路の写真であることに争いのない検甲一号証の一ないし一八によれば、本件道路の状況などは別紙現場見取図に記載のとおりであるほか、次の事実が認められる。

すなわち、本件道路は、幅員が北行車線、南行車線とも各二・八メートルで、道路両側に路側帯があり、南から北に下って南側湾曲地点となり、ほぼ平坦な事故現場を経て同見取図の北側の湾曲地点(以下「北側湾曲地点」という。)へと蛇行してさらに下り傾斜となっている。南から北に下る場合、南側湾曲地点の東側には電柱や茂みがあるため、南側湾曲地点より南からは衝突地点付近より北の南行車線の一部が見通せず、衝突地点より北の南行車線がほぼ見通せる地点まで下れば、同地点から衝突地点までは比較的短距離である(約三八メートル位)。逆に北から南に上る場合、北側湾曲地点の西側にも石垣と茂みがあるので、北側湾曲地点より北からは衝突地点付近を見通せず、衝突地点が見通せる地点まで上れば、同地点から衝突地点まではやや距離がある(約六九メートル位)。

2  成立に争いのない丙五号証、証人平井智也の証言により真正に成立したと認める丙七号証、証人平井智也、同紙屋清次(一部)及び同神谷史生の各証言によれば、次の事実が認められる。

(一) 本件道路は、従前からいわゆる暴走グループなどが集まる場所で、本件事故の当時も相当数の車両が集って高速走行を繰り返していた。哲也も新児も、このように高速走行を繰り返している者達の一員であった。これらの者達の間では、このように高速走行している対向車がセンターラインを越えてくる危険性がかねてから話題となっていた。ちなみに、佐藤車にはナンバープレートがなかった。

(二) 本件事故直後、佐藤車は、南行車線の道路中央線寄り(別紙現場見取図の「サ3」点付近)に両輪を道路中央線に向けて南向きに転倒していた。また、哲也は衝突後跳ね戻された状態で投げ出され道路東側草地に落下した。なお、佐藤車は、間もなく東側路側帯(同図面の〈ア〉点付近)に移動された。

(三) 本件事故直後、小林車は横転し、佐藤車が転倒していた地点から約一六メートル北西の地点(同見取図記載の電柱を起点として、同〈1〉までの距離二七・四メートルから同「サ3」までの距離一一・八メートルを差し引いたもの)の山地(上り斜面)まで斜めに滑走して路面に擦過痕を残していた。

(四) 両者とも、衝突前に制動したブレーキ痕は、見当たらない。

3  以上の事実と甲二四号証(刑事部鑑識課長小西公昭作成の「交通事故事件の痕跡鑑定結果について」と題する書面)によれば、本件事故は、相当な高速で走行していた小林車が、南側湾曲地点をいわゆるコーナーカットしてより直線的に走行しようとしたため、同地点右側の電柱や茂みに視界を遮られて南行車線を走行して来る佐藤車に気付かないまま、反対車線(南行車線)に侵入し、折から南行車線の中央付近を南に高速で走行していた佐藤車の直前にそのやや左前方から飛び出す形となったため、両者とも制動する間もなく、双方立位で各左に転把した状態で正面衝突し、佐藤車は同所で停止して転倒し、小林車は転倒して滑走したものと認められる。

4  以上の認定を左右するに足りる的確な証拠はない。

証人紙屋清次の証言のうち佐藤車の転倒していた位置に関する部分は、具体性を欠き不自然なものであって、前掲各証拠に照らし措信できない。

丙一五号証の一及び二、丙一七号証は、衝突地点は「両者が共に反対車線から自車線に復帰しようとした、センターライン上付近と考えて妥当である。」とする。しかし、右各証は、本件事故による佐藤車の転倒地点を別紙現場見取図の〈ア〉点とする前提において採用し難いものである。また、丙二一号証も右同様のものであり、南行車線を走行していた佐藤車にその斜め前方から小林車が衝突したとすれば車両の変形や破損状況や相互の塗料の付着状況に符合しないともいうが、独断的な内容であってたやすく首肯し難いだけでなく、佐藤車がスピン(回転)して北向になり転倒したという点において採用し難いものである。

5  さて、1ないし3に認定したところによれば、新児は、道路中央線を越えて相当な高速度で南行車線に侵入し、折から南行車線の中央付近を走行していた佐藤車の直前にそのやや左前方から飛び出す形となり、制動する間もなく、正面衝突したものであるから、本件事故の主たる責任が新児にあることはいうまでもない。

しかしながら、一方、哲也も、高速走行を繰り返していた者達の一員として、このような者達の高速走行による危険を十分に認識していたものというべきところ、それにもかかわらず、原動機付自転車で高速走行(前掲各証言によれば時速四〇キロメートル以上と推認される。)をしていたものであって、哲也が原動機付自転車の制限速度を遵守し、あるいは道路の左側に寄るなどして通行しておれば、本件事故を回避することも不可能ではなかったというべきであり、過失があるといわなければならない。

以上により、新児の過失割合を八割と認め、哲也の過失割合を二割と認めるのが相当である。

二  損害について

1  控訴人小林らの分

(一) 新児の逸失利益

平成三年六月及び七月の収入額(乙二号証の二及び三)から年収三五〇万九〇四〇円と推認するところ、就業可能年数を四八年(ホフマン係数二四・一二六)、生活費控除を五〇パーセントとして、逸失利益は四二三二万九五四九円と認めるのが相当である。これ以上の逸失利益を認めるに足りる的確な証拠はない。

(二) 医療費

六万一三九〇円(丙三号証の一、二)

(三) 葬儀費用、読経代、墓石代など

葬儀費用一〇〇万円の限度で相当因果関係ある損害と認める。

(四) 慰謝料

既に認定した諸事実、その他諸般の事情を考慮し、新児の慰謝料を二〇〇〇万円と認める(控訴人小林ら固有の慰謝料は右に事実上含まれるものとして各別には認定しない。)

(五) 以上の合計は六三三九万〇九三九円となるところ、前記過失相殺として八割を控除すれば一二六七万八一八七円となる。

(六) 損害のてん補

二〇四〇万〇一八四円(争いない。)

(七) (五)から(六)を控除すれば、七七二万一九九七円の過払いとなっている。

(八) そうすると、弁護士費用の請求も失当というほかない。

(九) よって、控訴人小林らの被控訴人らに対する請求は、いずれも、理由がない。

2  被控訴人らの分

(一) 哲也の逸失利益

被控訴人佐藤春雄本人尋問の結果により認められる従前の生活状況によれば平成三年賃金センサスの産業計・企業規模計・男子労働者の小学新中卆の一七歳以下の平均年収一七六万二二〇〇円と同一八及び一九歳の平均年収二三一万六九〇〇円とに鑑み、哲也の稼働能力を年収二〇〇万円に相応するものと推認し、就業可能年数を五〇年(ホフマン係数二四・七〇一)、生活費控除を五〇パーセントとして、逸失利益は二四七〇万一〇〇〇円と認めるのが相当である。この認定を左右するに足りる証拠はない。

(二) 被控訴人佐藤春雄の負担した左記費用(合計一〇六万八〇〇〇円)

(1) 医療費

六万八〇〇〇円(甲一四号証のうち主張分)

(2) 葬儀費用、読経代、香典返し、位牌代など

葬儀費用一〇〇万円の限度で相当因果関係ある損害と認める。

(三) 慰謝料

既に認定した諸事実、その他諸般の事情を考慮し、哲也の慰謝料を二〇〇〇万円と認める。

(四) 以上の合計は、被控訴人佐藤春雄につき共通分合計四四七〇万一〇〇〇円の二分の一に同被控訴人の負担した費用合計を加算した二三四一万八五〇〇円、同佐藤敏子につき二二三五万〇五〇〇円となるところ、前記過失相殺として二割を控除すれば、被控訴人佐藤春雄につき一八七三万四八〇〇円(右共通分が一七八八万〇四〇〇円であり、その余の負担費用分が八五万四四〇〇円。)、同佐藤敏子につき一七八八万〇四〇〇円となる。

(五) 損害のてん補 三〇〇〇万一六〇〇円(争いない。)

(六) (六)の二分の一(一五〇〇万〇八〇〇円)を(四)の共通分からそれぞれ控除すれば、残額は、被控訴人佐藤春雄につき三七三万四〇〇〇円(右共通分が二八七万九六〇〇円。)、同佐藤敏子につき二八七万九六〇〇円となる。

(七) 本件事故と相当因果関係ある弁護士費用としては、被控訴人佐藤春雄につき四〇万円、同佐藤敏子につき三〇万円、と認めるのが相当である。

(八) そうすると、

(1) 被控訴人佐藤春雄の請求は、上記合計四一三万四〇〇〇円、並びに内金二八七万九六〇〇円に対する平成三年八月五日から、残金一二五万四四〇〇円に対する平成五年一〇月一〇日(被控訴人らは本件訴状送達の翌日からの遅延損害金を請求しており、訴状送達の日が同月九日であること記録上明らかである。)から各支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由がある。

そして、控訴人小林らは新児が負うべき右損害賠償責任を各二分の一の割合で相続したものである。

よって、被控訴人佐藤春雄の請求は、控訴人小林らのそれぞれに対し、各二〇六万七〇〇〇円、並びに内金一四三万九八〇〇円に対する不法行為の日の後である平成三年八月五日から、残金六二万七二〇〇円に対する同平成五年一〇月一〇日から各支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があり、その余は理由がない。

(2) 被控訴人佐藤敏子の請求に関し、上記合計三一七万九六〇〇円の二分の一は一五八万九八〇〇円となるが、この点につき、原判決は一五七万一六八九円を認容し、その余を棄却したところ、これに対し右被控訴人から控訴や附帯控訴はない。そうすると、当審は右原判決が認容した以上の額を認定することはできないから、右原判決認容額以上の判断は差し控えることとする。

そうすると、被控訴人佐藤敏子の請求は、右(1)と同様にして、控訴人小林らのそれぞれに対し、各一五七万一六八九円、並びに内金一四二万一六八九円(右金員から後記一五万円を控除した額)に対する平成三年八月五日から、内金一五万円に対する平成五年一〇月一〇日から各支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があり、その余は理由がない。

3  被控訴人の控訴人国に対する不当利得返還請求

(一) 被控訴人らが、平成四年一一月一日ころ、それぞれ一〇二〇万〇〇九二円(合計二〇四〇万〇一八四円)及びこれに対する遅延損害金を支払うよう請求を受け、送付された納入告知書により、同月四日、それぞれ金一〇二〇万〇〇九二円及び遅延損害五五八九円の合計一〇二〇万五六八一円を納入したことは当事者間に争いがない。

(二) 本件事故につき哲也にも過失があり、その過失割合が二割であることは前記認定のとおりである。

そして、控訴人小林らの損害が合計六三三九万〇九三九円であり、その二割が一二六七万八一八七円であることも前記のとおりであり、被控訴人らそれぞれの負担額は六三三万九〇九三円となる。

この六三三万九〇九三円に対する本件事故から平成四年一一月四日まで四五九日間の民法所定年五分の割合による遅延損害金は三九万八五八一円となる。

(三) 弁護士報酬一〇二万円は、国に利得がないから、不当利得と認められない。

(四) そうすると、被控訴人らの控訴人国に対する各請求は、一〇二〇万五六八一円から六三三万九〇九三円及び三九万八五八一円を控除した三四六万八〇〇七円の限度で、理由があり、その余は理由がない。

三  よって、

1  控訴人小林らの控訴につき、

(一) 控訴人小林らの本訴請求を棄却した原判決は相当である。この部分の控訴人小林らの本件控訴は理由ないから、いずれも棄却する。

(二) 被控訴人らの本訴請求を一部認容した原判決は、右二2に説示したところと異なる限度で不当であるから、原判決を右のとおり変更する。

2  控訴人国の控訴につき、被控訴人らの本訴請求を一部認容した原判決は、右二3に説示したところと異なる限度で不当であるから、原判決を右のとおり変更する。

3  訴訟費用の負担につき民事訴訟法六七条、六一条、六四条、六五条を、仮執行の宣言につき同法二五九条を適用する。

(裁判官 笠井達也 田中恭介 大塚正之)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例